如何にして私は男声合唱の魅力に取り憑かれたか

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私はこの記事を男声合唱組曲「富士山」より作品第貳拾壹を聴きながら書いている。読者の皆さんにもこの曲を聴きながら読むことを勧める。記事の内容を実感としてより深く理解していただけると思う。
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私の大学生活を語る上で男声合唱の話は避けて通れない。
私は大学入学まで自主的な演奏経験は無かったが、大学の男声合唱団に入団したことをきっかけに、現在4年生に至るまでどっぷりと沼に浸かっている。入団当初の音楽的な知識がない頃は、男声合唱の魅力についてふわっと「和音が鳴るとなんだか心地良い」くらいにしか表現できなかったが、音楽について勉強し、歌い続ける中で少しずつ理解が進んだのでここに書き留める。

そもそも男声合唱とは、文字通り男声パートのみ(と伴奏)によって構成される合唱だ。大概の曲ではパートは4つに別れており、担当する音域が高い方からトップテナー、セカンドテナー、バリトン、ベースとなる。混声合唱との大きな違いは扱う音域である。混声合唱曲は最低音から最高音まで3オクターブ以上のものが多いのに対して、だいたいの男声合唱曲は2オクターブ半程度の音域で書かれている。また、男声合唱のベースは混声合唱のベースに比べて音が低く書かれる傾向がある。混声合唱のベースは、どちらかというと男声合唱におけるバリトンに相当する音域だろうか。
つまり、男声合唱混声合唱に比してより狭く、より低い音域で表現する構成である。男声合唱の魅力もここに由来する。

男声合唱の魅力は様々あるが一番は倍音の豊かさであると思っている。
この倍音というのが複雑で非常に説明が難しいのだが、例えば、ドの音を歌ったとき、実はソやオクターブ上のドの音(他にももっと多い!)の要素もはっきり知覚できないレベルで含まれている。イメージとしては小数点以下に無数に数字が続いている感じだろうか。私たちは普段、小数点以下の音(倍音)を切り捨てて整数部分の音(基音)を指して音階を表現する。しかし小数を足していけば1を超えるように、複数人で歌えば切り捨てられていた倍音が合算されて知覚できるようになる。つまり、上手く声を合わせれば楽譜上に書かれていない音までもが鳴り、非常に豊かな和音が響く。
*1*2
男声合唱は狭い音域で和音を作るので倍音が鳴りやすい気がする。男声合唱を語る際に「迫力がある」「音に圧がある」と評されるのはこの音の密度、倍音の豊かさを指したものと解釈している。

入学したての私が感じた「なんだか心地良い」の正体は、これだったのかなと思っている。私は混声合唱ではなく、男声合唱に心を動かされ、その道に進んだ。男声合唱団に入団したのは男ばかりの環境が男子校出身の肌にあったことも理由の一つだが、それを抜きにしても私は、音楽表現の一形態としての男声合唱を愛している。

*1:自然界のほとんどの音に倍音は含まれていて、楽器の音色や人の声に違いをもたらしているのも倍音らしいです

*2:倍音を幻聴とする宗教人もいるみたいです